認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

脳と腸の密接な関係

今回は「脳と腸の密接な関係」を示唆するような、非常に興味深いマウスの実験報告がありましたのでご紹介いたします。

これは九州大学大学院医学研究院の須藤信行教授による「腸脳相関」に関する研究報告になりますが、概要を以下にまとめます。

 

・腸内細菌を持たない無菌マウスは、外界からの各種刺激・ストレスに対して過敏でアレルギーを抑制する力も弱いが、細菌を植え付けると次第にアレルギー反応が抑えられる。無菌マウスの免疫系は腸内細菌という外的要因に曝されることで成熟し、十分な機能を持つことでアレルギーの抑制力が高まる。

・生後の環境要因も影響し、母マウスが幼少の子マウスを舐めたりさすったりする「母性行動」の強さと成長した後のマウスにおけるストレスに対する抵抗性の強さは相関する。母性行動が強いほど「視床下部ー下垂体ー副腎軸反応」と呼ばれるストレス応答が抑えられて、ストレスに対して過敏にならずに済む。つまり乳幼児期に母親から十分なケアを受けたマウスは、成長するとストレスに対して抵抗性を示すようになる。

・無菌マウスはストレスに弱くて不安行動が多いほか、多動、攻撃的、他のマウスを食べてしまうほどの荒っぽさを持つことが研究者の間では知られていたが、ビフィズス菌を投与したら通常マウスと同程度に鎮静化した。

・無菌マウスに通常マウスの腸内細菌を移植したら、ドナーとなったマウスの性質も受け継いで、臆病な性質だったマウスが冒険的になり、大胆だったマウスが内気になった。

・無菌マウスは脳由来の神経栄養因子も少ない(=脳の成長や修復・再生に不利)。マウスの実験で腸内細菌が生成する短鎖脂肪酸の一つである酪酸を投与されたマウスでは、脳の海馬や前頭葉における脳由来の神経栄養因子が増加していることが分かり、脳の成長に寄与している可能性が示唆された。

・乳酸菌が不安や抑うつを減少させる。動物実験では酪酸には抗うつ作用があることが分かった。

 

これらはあくまで動物での実験結果から導かれたものなので、そのまますぐ人間にも当てはまるという訳にはいきませんが、「腸と脳の関係」についてとても示唆に富んだ内容になっていると思います。

腸内細菌によって腸内環境が成熟するとストレスやアレルギーへの抵抗力が高まる。

逆に言うと腸内環境が成熟していないとストレスに弱く、アレルギーにもなりやすい。

幼少期に受ける母性行動つまり「愛情」が脳を育てる。

逆に言うと幼少期に十分な「愛情」を受けないで育った子供、虐待やネグレクトの中で育った子供は脳の成長が妨げられている可能性がある。

これらについては皆さんも経験的に「腑に落ちる」のではないでしょうか。

 

性格や精神面において、腸内環境が成熟していないと不安、多動、攻撃的になるけれども、腸内細菌によって腸内環境が成熟すると落ち着いてくる、ということに加え、別の個体の腸内細菌を移植することで性格まで元の個体のものに似てくる、というのにはとても驚かされました。

また、その人が持っている腸内細菌の多様性・生態系いわゆる「腸内フローラ」は、指紋のように人によって違うそうです。

もちろん性格も人それぞれ違います。

腸内フローラの状態を決めているのは腸内細菌ですので、「腸内細菌を育てるエサ=その人が食べている物」であれば、その人が普段食べている物や好んで食べる物によって腸内で優勢になる腸内細菌も変わり、性格や精神状態も変わってくるのでしょう。

そうだとすれば、やはり前回お話ししたように「人間の身体も精神も食べた物からできている」と言っても決して過言ではないのかもしれません。

 

また腸内細菌が生成する短鎖脂肪酸が脳の成長や修復に関わる栄養因子を増加させるということは、腸内細菌が脳を育ててくれて、神経が傷ついた時には修復もしてくれるということです。

さらに短鎖脂肪酸が腸のエネルギー源になって蠕動運動を活発にし、便通を促してくれるばかりか、短鎖脂肪酸の一つの酪酸は「不安」と「うつ」まで抑えてくれるというのであれば、もうせっせと腸内細菌が喜ぶ物を食べて短鎖脂肪酸をたくさん作ってもらうしかありません。

今はいろいろな種類の短鎖脂肪酸も販売されていますので、それらを直接摂取しても良いでしょう。

 

実際に、これだけ腸内フローラが脳や人間の健康状態に影響を与えていることが分かってきたことで、「健康な人の便つまり腸内細菌」を移植して病気の治療を行う「便移植療法」を実施する医療機関も出てきているそうです。

「便移植療法」によって腸内細菌叢つまり腸内フローラの状態を改善させて病気を治療しようというのです。

「健康な人の便」が病気を治してくれるというのですからもう驚きですよね。

でも、今までお話ししてきた腸内細菌の働きと腸内環境が脳や健康に及ぼす影響をについて理解すれば、それも十分に納得できることだと思います。

そして認知症の治療とケア、予防に「腸活」が不可欠なことも。

皆さんも心身の健康のために「腹が立ったり」「腹黒く」なったりしないよう、「腹を据えて」一緒に「腸内細菌の育成」に励みませんか。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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