認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

認知症改善のために「糖質制限」を導入する際の留意点

前回まで4回に渡って認知症になると甘いものを好んで食べるようになる理由についてお話しし、特に砂糖を使った甘いものを控えることが認知症の症状の改善はもちろん、あらゆる方の健康づくりにも役立つということをお伝えしました。

本日受診された前頭側頭葉変性症の患者さんもコーラが大好きで、甘いお菓子も自分でたくさん買い込んで飲み食いしていたのですが、投薬治療と並行して家族にも、本人の目にできるだけ甘いものが触れないよう工夫してもらったり、飲み物も麦茶などに切り替えてもらったところ、困っていた易怒性が明らかに減るとともに、デイサービスで拒否していたお風呂にも毎日のように入るようになったということで家族が大変喜んでいました。

そしてあれだけ食べたり飲んだりしていた甘いものも、1日1回程度で済むようになったということでした。

ちなみにこれらは認知症で見られる典型的な前頭葉症状ですが、逆に考えれば甘いものの摂取量や摂取頻度が治療や改善度の目安にもなると思われます。

 

また甘いものに限らず精製された小麦などの炭水化物も急激に血糖値を変動させること、また炭水化物は「マイルドドラッグ」と呼ばれて「依存性」があることについても触れましたが、認知症の症状改善や皆さんの健康づくりのためには、甘いものに限らず「糖質」全般を控える方がより効果的だと言えます。

この糖質を制限する食事法は「糖質制限」と言われ、ダイエットや生活習慣病の予防や治療にも効果があるということで最近よく耳にするようになりましたが、認知症症状の改善にも効果があるということです。

 

以前、私たちの身体は精神も含めて食べたものからできているというお話をしましたが、食べたものが偏っていると身も心も当然バランスを崩してしまいます。

つまり「医食同源」ということですが、私どもは健康のためには何よりもまず食事習慣が大事だと考えて認知症の治療にあたっています。

認知症治療にはもちろん薬も使いますが、薬にはどうしても副作用のリスクがあるので使用量は最小限にしたいということもあります。

そのため効果的なサプリメントなども組み合わせて利用していますが、認知症の精神症状を落ち着かせるために、まずは食事で甘いものを控えてもらうこと、そして可能な方に対しては「糖質制限」もできる範囲で行ってもらうようアドバイスしています。

ただ薬ほどではありませんが「糖質制限」にもリスクがあるので、しっかりと症状の経過を見極めていく必要があります。

糖質制限」を導入してかえって活気がなくなってしまったり、症状が悪化してしまうケースも数例ですが経験しているからです。

そのため私どもは認知症を伴う高齢者の方が実施するものでもあるので、比較的リスクの少ない「緩やかな糖質制限」をお勧めしています。

当たり前のことですが内臓疾患の合併症があったり、食が細くて栄養不足気味だったり、もともと偏食があったり、認知症の症状で食事にこだわりがあったり、長年の食習慣を変えるのが難しかったりする場合にはお勧めしません。

 

ちなみに甘いものを控えたり、主食の炭水化物を減らす「糖質制限」は、いざ実践するとなると意外にストレスになるとともに手間が掛かります。

今まで慣れ親しんできた炭水化物が主食の献立てを改めなければならず、おかずをたくさん作らないといけなかったり、いちいち食材の糖質量を考えながらメニューを決めなければならないからです。

また糖尿病が「贅沢病」と言われたのは過去のことで、今や糖尿病は安い炭水化物食品をたくさん食べて発症する「貧困病」とも言われますが、「糖質制限」はそれとは逆の食事になるのでしっかりやろうとすると当然コストもかかります。

いわば糖尿病になりにくい食事こそが今ではコストもかかるし手間もかかる「贅沢食」になっているのですが、それこそが私たちの身や心にとってもおいしい本当の「贅沢食」にもなります。

 

ここで強調しておきたいのは「糖質制限」を始めたからといってすぐに効果が出るとは限りませんし、先ほども触れましたが、逆に認知症の症状が悪化してしまうケースもあるということです。

認知症の症状は、その方の身体の体調や健康状態をベースにして、様々な要因が重なって出現しているものだと言えます。

そのため新たな「糖質制限」の導入により、かえって心身のバランスを崩してしまったり、困った精神症状を出している要因を増強しかねないからです。

またどんなに良い治療法であったとしても誰にも合うという保証はありません。

認知症の治療について全般的に言えることですが、治療のために何か新しいことを始めた場合には、それによる変化をしっかり見極めながら継続するか中止するかを判断する姿勢を常に持ち続ける必要があります。

また新たな治療の効果が出るまでに一定期間かかる場合もありますので、症状の変化に一喜一憂せず、数週間から数か月単位の視点でどっしりと腰を据えて取り組む姿勢も大切です。

私どもが一番苦労するのは、お勧めした食事療法や処方した薬の内容を、その日の症状に合わせて家族が勝手にいじってしまうケースです。

これだと今の治療が本人に合っているのか合っていないのか、何が良くて何が悪いのかが分からなくなってしまうばかりか、精神症状が波を打ってしまってなかなか認知症が改善せず、逆に悪化してしまうことも少なくないからです。

 

糖質制限」は人によって合う合わないがありますが、確かに認知症の治療に効果的な場合が多く、皆さんには是非有効活用していただきたかったので、今回はあえて「糖質制限」を導入・継続する際の留意点についてお話ししました。

次回は認知症治療における「糖質制限」のさらなる有効性についてご紹介します。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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