認知症診療あれこれ見聞録 ~エンヤーコラサッ 知の泉を旅して~

日々認知症診療に携わる病院スタッフのブログです。診療の中で学んだ認知症の診断、治療、ケアについて紹介していきます。

前頭葉症状と発達障害(後)

前回は、当院で「認知症」と診断される方は、元々ASD(自閉症スペクトラム障害)傾向やADHD注意欠陥多動性障害)傾向、またはASDとADHD両者の傾向を併せ持っていて何かしらの「前頭葉症状」を呈していた方がとても多いこと、そしてそこに「もの忘れ」がくっついてきたり「前頭葉症状」が前景化してしまって受診に至るといったケースが多くなっているというお話をしました。

今回はその続きです。

 

今回はまず、以前も引用した中央大学文学部の緑川研究室(神経心理学研究室)がホームページ上に掲載している「発達障害認知症」についての報告を再度引用してみます。

パーキンソン病レビー小体型認知症の人々に対して昔を振り返ってもらうと、発達障害の一つである注意欠陥多動性障害だった率が他の認知症に比較して有意に高いことが報告されています。同じく、原発性進行性失語症の人々を調査すると、本人やその家族に学習障害だった人々が他の認知症に比較して有意に高いことが報告されています。

一方、これまで見過ごされてきたことですが、臨床的に前頭側頭型認知症と診断された患者の中には、それまで診断されることが無かった自閉症スペクトラム障害の人がいるのではないかと考えられていましたが、私たちの研究チームは、アルツハイマー病の人々と比べて、臨床的に前頭側頭型認知症と診断された人の中には、発症前に自閉症スペクトラム障害であった可能性が高いことを改めて確認しました.

ただし、自閉症スペクトラム障害が前頭側頭型認知症の危険因子となるのか、あるいは前頭側頭型認知症と診断された方の中に、未診断であった自閉症スペクトラムが含まれているだけなのかは未解決なままです。」(中央大学 文学部 緑川研究室(神経心理学研究室)https://c-faculty.chuo-u.ac.jp/blog/green/研究テーマ/発達障害と認知症/

 

また「European Journal of Neurology」2011年1月号に発表された「ADHDに罹患している成人は変性性認知症を発症する可能性が3倍以上になる」という研究報告の記事がありますので、これも以下に引用してみます。

「『我々の研究では、高齢者の変性性認知症疾患としてアルツハイマー病に次いで2番目に多いレビー小体型認知症(DLB)患者の48%が、以前は成人ADHDに罹患していたことを示している』と報告者のAngel Golimstokは述べている。

対照群とアルツハイマー病群において成人ADHDが15%であったのに比べると、その割合は3倍以上になる。」(NEWS MEDICAL LIFE SCIENCES https://www.news-medical.net/news/20110118/Research-Adults-with-ADHD-are-more-likely-to-develop-degenerative-dementia.aspx

 

これらの研究報告によれば、ADHDの人はパーキンソン病(PD)やレビー小体型認知症(DLB)に移行しやすく、ASDの人は前頭側頭型認知症(FTD)に移行しやすいということになります。

つまりASDやADHDの方は加齢とともに認知症を伴う神経変性疾患に移行しやすいということであり、そうであるならばASDやADHDでは元々「前頭葉症状」を呈していることが少なくないため、「認知症」の方の多くが「前頭葉症状」を持ち合わせていることはある意味当然なのかもしれません。

したがって「認知症」を発症してから「前頭葉症状」が出現してくることももちろんありますが、逆に言えばそもそも元々「前頭葉症状」を持ち合わせているASD傾向やADHD傾向の強い方が「認知症」になりやすいとも言えるのです。

そしてここから先はエビデンスのない私自身の個人的な印象になりますが、ASD傾向やADHD傾向の強い方が移行しやすいのはどうも「認知症」だけではないようなのです。

 

前頭葉症状」の中に「食行動異常・嗜好の変化」というものがあります。

この症状が出てくると、甘い物の摂取や喫煙、飲酒なども我慢できずに大量になってしまう傾向があるのですが、実は元々その傾向がある方が「糖尿病」や「慢性閉塞性肺疾患COPD)」にもなりやすいのではないかと思われるのです。

「糖尿病」は糖質の多い食べ物や飲み物の過剰摂取などによる食生活習慣が原因で発症することが多く、「COPD」は長年の喫煙が発症リスクを高めていることが分かっていますが、前頭葉症状」があると両者の発症リスクを高めてしまうような生活習慣を助長しかねないのではないかと思われるからです。

理由はそれだけではありません

「糖尿病」も「COPD」も過剰な食事や喫煙といった不適切な生活習慣が原因で発症しやするくなるため、病状を改善したり悪化させないためには、薬だけでなく生活習慣の改善が不可欠になります。

そのため生活習慣を改善してもらうために、医療機関では病気に対する本人の理解を深めるとともに薬物療法をはじめ食事療法や運動療法などについて専門の医療スタッフが指導したりするのですが、それらの指導が上手くいかずに苦労することが多いのです。

「糖尿病」や「COPD」の方は元々気難しくて頑固だったり、マイペースな方が多く、周囲のアドバイスや意見に耳を傾けることはもちろんそれを実践に移すのが難しかったりします。

そのため指導に対して聞く耳を持たずに拒否したり、せっかく実践できるようになっても自己流になってしたり、またはすぐに飽きてしまったり、自己判断で中断してしまったりすることも少なくありません。

医療スタッフの中には経験的に「糖尿病」や「COPD」の方にはそのような気質の方が多いことを知っていて、それを「糖尿病気質」だとか「COPD気質」などと言っている人もいるほどです。

お気づきだと思いますが、そういった気質はASD傾向やADHD傾向のある方が持ち合わせている「前頭葉症状」をベースにした気質に良く似ています。

「糖尿病気質」も「COPD気質」も「糖尿病」や「COPD」になってから二次的に生じてくるものだと考えがちですが、そもそもASD傾向やADHD傾向のある方がこれらの病気になりやすいのであれば、それらの気質を元々持ち合わせていたのではないかとも考えられるのです。

さらに「糖尿病」の方は、そうでない方に比べて「アルツハイマー認知症」や「血管性認知症」などの認知症発症リスクが2~4倍になるとも言われていますが、もしかすると「糖尿病」による身体的要因によるリスクだけでなく、「糖尿病」になる方は「認知症」に移行しやすいASD傾向やADHD傾向の気質を元々持ち合わせていることが多いため、そのことも認知症の発症リスクを高める一因になっているのではないかと言えるかもしれません。

 

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。

 

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